修了生・在学生の声&活動
Voices of Graduates and Students & Activity
修了生 Graduates
岡山大学大学院社会文化科学研究科に2022年4月から2023年9月まで在籍し、働きながら税理士登録しました。体験談としてご参考になれば幸いです。
入学までの経緯
私は岡山大学を卒業し、金融機関に就職しました。審査担当者として10年以上を過ごし、多くの中小企業の経営者とお話する機会を頂きましたが、その中で痛感したのは、「会社」という組織が様々な側面に基づいて成立しているということです。金融機関に勤める担当者の目線では、企業のBSやPLなどの数字だけを見て、「会社の全体像を理解したつもり」になりがちです。しかし、実際の企業の経営には、商品やサービスの企画や提供といった主活動のほか、人事労務や技術開発、調達といった支援活動が有機的かつ複雑に連動して成り立っていること、また、税務はそれらすべての活動に関連していることを知りました。税理士が事業者から一番近いパートナーである所以を理解するとともに、自身もより良い支援を行うためには、税務の知識は不可欠であると考え、税理士資格の取得を決断し勉強を始めました。
税理士試験の勉強において驚いたのは、何よりも暗記量の多さです。それぞれの税法が定める内容の正確な把握は当然であり、一定量の暗記が必要なことはもちろんですが、合格のためには法律や通達を正確に句読点まで覚えることが求められます。しかし、急速な社会の変化に伴って、どんな税法も通達も変わる可能性があります。「法や通達がなぜ、このような規定を設けているのか」を理解できなければ、本質的な税法の理解には至らないのではないかと考え、大学院への進学を選択肢として検討するようになりました。
大学院生活について
フルタイムの勤務を継続しながらの大学院生活は、仕事との兼ね合いもあり、多忙を極めるものでした。私は入学時に修了までの方針を立て、1年目は論文執筆に備え、修了に必要な単位を可能な限り修得することとし、2年目は論文に集中するとの計画を立てました。初年度は、概ね週3日以上は講義を受講し、その講義の予復習や発表準備のため、講義のない平日の夜や休日は手一杯の状況が続きました。仕事上の「付き合い」はもちろん、休日に子供と遊ぶ時間も十分に取ることができず、子供にはずいぶん寂しい思いをさせてしまいました。大学院進学に限った話ではありませんが、家族の理解と協力は必須だと思います。これに関連し、税理士資格の取得を大学院進学の目的とされる場合、合格が必要となる科目(私の場合は税理士試験の会計2科目及び税法1科目でした)は、修士号取得に先行して合格することを強くお勧めします。特に税法の修士論文を書く人は、会計2科目に合格済みの状態で入学されることが望ましいと思います。
履修においては、「今後の自らの仕事に活かすことができるか」という視点から選択しました。租税法の範囲は極めて広いため、関連する十分な知識を習得することを目的に、租税法に関する講義は開講されているものを全て履修しました。5科目の試験合格による登録では選択する予定のなかった税法に関しても触れる機会が得られるのは、大学院での学びの特徴です。また、講義やゼミにおいて、税理士事務所に勤務する多くの「税理士の卵」を中心として、助け合い、触発され、議論しあった時間は非常に貴重なものでした。ここで築いたネットワークは、仕事に関わらず、今後も大切にしていきたいと思います。
また、大学院へ進学するメリットは他にもあります。それは税法以外の分野に関する学びが可能であることです。冒頭に述べたように、企業経営が非常に複雑な営みである以上、必要な学びは税法に留まりません。大学院ではMBAコースが設置されているため、ファイナンス、経営管理、マーケティング等多様な講義が用意されています。様々な背景を有するMBAコースの学生や指導教員、講義いただいた実務家の方々との交流は非常に刺激的なものでした。
論文執筆について
税法に限った話ではありませんが、多くの大学院生がつまずくのが論文におけるテーマの設定だと思います。私も執筆に取り掛かった当初、入学時の研究計画に記載したテーマで書き進め暗礁に乗り上げてしまいました。そのとき、指導教授が親身に相談に乗ってくださり、論文のテーマを途中で変更しました。執筆途中では、進捗状況を共有しながら、主張や根拠の弱い部分については的確な助言をいただき書き上げることができました。特に、私が選択したのが国税徴収法に関連するもので、ややニッチなテーマでしたが、指導教授が国税庁からの出向教員であったので、法の背景や実務における運用について、自らの経験も交えて教えてもらうことができたため、論文の内容を深めることができました。非常に感謝しています。
執筆において調査しなければならない範囲は非常に多岐にわたり、関連する判例や学説の調査も時間を要します。入学時に「研究は、前を走る研究者の石(研究成果)の上に石を重ねる地道な作業」と聞かされていましたが、まさにその一端を経験しました。書いては消し、書いては消しを繰り返す作業で当初はなかなか進まず焦りばかりが募る毎日でしたが、考えているうちに思考がクリアになり、論文の骨格が出来上がった後は、スムーズに執筆が進みました。
さいごに
初年度に修了のために必要な単位数を概ね取得していたことと、選択した修士論文のテーマが現在の業務内容に関連し多少の知識を有していたことで執筆期間が想定より短かったこともあり、大学院は1年半で早期修了することができました。修了後、半年程度で国税庁より免除通知をいただき、税理士として登録しました。今振り返るとあっという間の1年半でしたが、大学院での学びは当初想定していたものより、非常に中身が濃く、充実した時間でした。
入学当初に抱えていた問題意識、すなわち「税に関する本質的な理解」に対しては、大学院進学により、今後に活かせる学びのきっかけを得たのではないかと思っています。それが模範解答の存在しない「租税法に関する奥深さ」への気づきです。
税法は「租税法律主義」が憲法に宣言されている通り、特に厳格な解釈が要請されます。その解釈をめぐっては、これまで多くの争いが生じ、判例や学説が長い期間にわたって蓄積されています。近時の報道でも度々話題になりますが、これまで採用され定着されてきた課税や徴収の実務が、ある日突然否定されることも少なくありません。特にインターネットの普及等で社会が急速に変化している現代において、こうした事態はますます増加するのではないかと考えています。
だからこそ、課税や徴収の現場において、法律が予期していない事態が生じた際、それを判断する人が解釈によって「あるべき姿の税負担」に導くのか、それともそれを「法律の瑕疵」と認めたうえで、法律を改正するよう働きかけるのかは、租税法の抱える非常に難しい、その一方で面白く奥深い点です。解答が用意されていないため、配点も得点ランキングもない学びですが、税理士として向き合わなければならない課題であり、大学院での学びの醍醐味であると思います。
租税に関する法律は、年々ヴァージョンアップを続けています。税理士を名乗る以上、そうした流れにしっかりとキャッチアップし、社会の役に立てるよう努力を継続していきます。
私の経験が、これから進学を検討されている方の判断の一助になれば幸いです。
税理士試験免除決定通知書